長崎県佐世保市などでカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致の動きが進む中、国がギャンブル依存症対策基本法などに基づき都道府県や政令市に求めている治療拠点の病院の選定について、九州では佐賀県だけにとどまっている。「専門の医師や看護師不足」が背景にあり、厚生労働省も遅れを認める。患者家族会や識者からは「IR推進とセットであるはずの依存症対策が遅れることは許されない」と懸念する声が上がっている。
基本法は、IR関連法の国会審議に合わせ、患者や家族への支援強化を目的に制定、昨年10月に施行された。都道府県などに、支援計画策定や医療関係者らの研修、普及啓発活動の実施などを求めている。
医療体制の整備も柱の一つ。国は来年度までに治療拠点となる病院選定を求めるが、今年2月時点で13道府県でしか決まっておらず、厚労省は「少ないと認識している」と遅れを認める。
九州では、佐賀県が国立病院機構肥前精神医療センター(吉野ケ里町)を拠点病院に選定。福岡県は5月中旬に公募を開始したばかりで、北九州市と福岡市は「県と足並みをそろえる」という立場。それ以外の県や熊本市は「未定」。
拠点病院の条件は、ギャンブル依存症の研修を受けた医師や看護師らがおり、特化した治療プログラムを実施する外来があること。アルコールや薬物といった依存症に比べ、ギャンブル依存症の研究は歴史が浅く「人材育成が遅れている」(厚労省)現状が整備の遅れにつながっているようだ。
一方で、九州弁護士会連合会(福岡市)などによると、2014年時点で人口当たりのパチンコ台数が全国で最も多いのが宮崎で、鹿児島、大分が続いた。各地にボートレースや競輪などの公営ギャンブル施設もある。さらに、長崎県と佐世保市が誘致を目指すIR施設について、九州の知事や経済団体でつくる「九州地域戦略会議」が官民でバックアップする方針を固めたばかりだ。
拠点病院選定の遅れについて、ギャンブル依存症の患者家族会の全国組織「ギャマノン」の関係者は「病院や回復施設が少なく、あってもどこもいっぱい。治療の裾野を広めるためには拠点があった方がいい」と願う。
依存症問題に詳しい大谷大の滝口直子教授(社会学)は「ギャンブルの賭け金を法律で上限規制するなど、根本的な予防策の制定がまず必要」とした上で「依存症に加え、うつや統合失調症などを併発している場合は医療機関での治療が必要になる」と拠点整備の重要性を訴えている。
【ワードBOX】ギャンブル依存症
パチンコや競馬、カジノなどの賭け事にのめり込む精神疾患。やめたくてもやめられず、家族や周囲を巻き込み、金銭トラブルや人間関係の破綻を引き起こす。政府が2017年度に実施した調査では、依存症経験が疑われる成人は推計3・6%で、国勢調査から算出すると約320万人。本人が依存症であることを認めたがらない「否認の病気」とも言われる。
西日本新聞社
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